令和地建株式会社
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2020年04月02日
不動産知識

マンションを購入したところ騒音が!

実際にあった判例を元に、不動産取引上の注意点を考えていきます。

売主、買主、業者の3者が注意を怠らないようにし合うことで、気持ちの良い取引ができますので、これまでの判例の中からなるだけ分かりやすいものをピックアップしながら、説明したいと思います。

まず今日は、平成12年頃に大阪高裁で判決のあった事例です。

紛争の内容

①買主Xは、マンションの分譲業者である売主Yから、新築分譲マンション(2F 203号室)を購入した

②買主Xは、当該マンションに居住した直後から、部屋の下で騒音がするので、売主Yに対して、対策を講ずるように申し入れを行った

③売主Yが、本件マンションの設計・建築会社であるA社と共に騒音の原因について調査したところ、買主Xの部屋の真下に設置された給水ポンプ室内の給水ポンプが原因であることが判明。数回にわたって、防音、消音工事がなされた。

④しかし、買主Xはその防音工事が不十分であるとして調停申立をして、さらなる防音工事をしたが、売主Yと結局折り合いがつかず、調停は不調に終わった。

⑤買主Xは、本件売買契約は要素に錯誤があり、無効であるとして、支払い代金等の返還請求をした。

お互いの言い分は!?

【買主Xの言い分】

給水ポンプの「ブーン、ブーン」という騒音は、物件の瑕疵であり、瑕疵担保責任に基づく契約の解除ができるはずであり、また、詐欺を理由として取り消すか、同時に本件ポンプ室が存在することなど全く認識しておらず、またそういう事情が分かっていれば購入しなかったのであるから、要素の錯誤であり、無効である(改正民法では「取り消し」)。

そして、買主は真下の「受水槽」につき、それが音を発するものか、また、発するとすればどのくらいの音がするかを尋ねて、音のしない住居であることを希望することを動機として表示しているので、要素の錯誤にあたると主張した。

【売主Y(業者)の言い分】

本件は隠れた瑕疵にあたらず、また、売主として詐欺をしたことはない。そして、買主は音のしないことを希望するようなことは言っておらず、その動機は表示されていないのであり、要素の錯誤にあたらない。

問題点

問題は、

売主Yの担当者が、購入前の買主Xから音について質問されたのに対し、十分な調査がなされないまま、不確かなことを断定的に回答したこと

です。

その前に、本事例は民法改正前なので、瑕疵担保責任という言葉が使われておりますが、今は、「契約不適合責任」に変わってます。契約した内容が、本来有すべき機能を有しているか、有していなければ契約不適合物件として、

①損害賠償の請求

②代金減額請求

③修補の請求

④契約解除、違約金

という形で、買主は救済されます。特にこの事例の場合、売主が業者ですので「2年以内に不適合部分を通知すれば」足ります。

この辺りを頭の片隅に置きながら、考えてみると、まず、売主に詐欺の意識は無かったでしょう。

すると、瑕疵担保責任(契約不適合)による契約解除ができるか、もしくは買主がこのマンションを買う動機の中に「音がしないこと」が要素として入ってるか、そしてそれが売主に表示されていたか

改正民法について、錯誤についてはこちら契約不適合責任についてはこちらで詳しく解説しています

本事例の結末は!?

この事例、売買後に売主と建築会社が防音、消音の対策工事をしたが結局効果を上げることができずに裁判になりました。

裁判所は、買主の主張である「要素の錯誤」を認め、売主Yに売買代金の返還を命じました。

その内容は以下

判決は、本件の騒音が通常の静けさの住環境にあるとは言い難いだけでなく、ポンプの異常音を避けるためには3年を目安とする交換が必要であるが、そのためにはマンション管理組合の理事会の決議が必要で、買主Xの意思のみで交換できないこと、売買契約に際して買主が受け取った図面に、購入したい部屋の真下に「受水槽」との記載があったので、「音はしないの?」と訪ねたのに対し、売主Yの担当者が「昔はしましたけど、今はしません」と答えたことは、通常の静けさを享受できる住戸を購入したいとする買主Xの動機が表示されているというべきであるとして、買主Xの意思表示には法律行為の要素に錯誤があるとした。したがって本件売買契約は無効であり、買主Xには重大な過失もないことを認定して、買主Xの代金返還請求を認容した。(平成12.12.15 大阪高裁)

ややこしいので噛み砕きますと、

①このポンプの「ブーン、ブーン」という音が大きく、静かにする為には交換が必要だが、すぐに交換できない

②買主は契約前、担当者に音がしないかを質問し、しないという回答を得ている

③動機の要素は表示しているので、動機の錯誤が認められた

④契約は解除、売買代金は全額返還

こういうことです。

 

考察しましょう

判決にもあったように、買主から音のことを聞かれ、売主の業者が断定的に

「音はしません」

と言い切ったのが問題だったわけです。ここは業者(売主、もしくは媒介業者も)としては、

「〇〇時頃に、〇〇dBぐらいの音が、〇〇の頻度で出るので、一度確認に来てください」

と、買主にお願いし、そのやり取りを契約書等に残しておくべきでした。

お互い、気になったことは証拠を残すようにし、買主からすれば、契約の動機になるような事柄については、業者任せにせず、特に念を押して聞くと良いと思います。

いくら契約解除になっても、手続きややり取りには諸経費もかかりますし、それにかかった時間は戻って来ませんので。

マンションの給水の仕組み

水道局から引いたものを1階で一旦貯めるのが受水槽、それを水圧ポンプで屋上の給水槽に運び、あとは、重力で水が落下していくので、下の階に水を供給します。

ただこの際、下の階になればなるほど落下速度が上がる為、キックバックという現象が起き、給水管が故障(破損)したりしてしまいます。なので、それを防ぐため、減圧弁がところどころに取り付けられ、安定供給できる仕組みになってます。

別の解決策として

本事例では、部屋の位置が2階なので、1階から屋上へあげる水圧ポンプのモーター音が原因となったと考えられます。

解決策としては、防音(消音)工事より、根本的に水道局からの水を直接屋上の給水槽へ吸い上げる「直圧給水方式」が考えられます。

一気に吸い上げることができなければ、途中の階に「増圧機」というものを取り付けて、屋上まで運びます。

それができれば、1階に「受水槽」は必要なくなるので、音もしない、そのスペースを有効利用できる、受水槽を通さないので水がより新鮮になる、というメリットがあります。

デメリットとしては受水槽で一旦溜めないため、断水時、一気に全て止まってしまうということが起こり得ます。(屋上の給水槽分はありますが)

もちろんこれも管理組合の決議が必要ですが、入居者全員にメリットが享受されますので、決議も通りやすいのではないかと思われます。

これも一つの解決策ではあるのですが、お役所への申請が必要なので、決議〜水道局の工事まではかなり時間がかかるでしょうし、その間、他の場所で生活をしてもらうとなると、その費用負担の割合などが複雑になるので、現実的には「契約解除」が一番簡素ではありますね。

最後に

いかがでしたでしょうか。

今日は1回目だったのでなるだけ簡単な判例を出してみたのですが、簡単なものほど、日常よく起こってるなんです。

交通事故も、あれだけ事故の事例を、教習所や更新時にビデオや写真で見せられるのに、起こしてしまいます。(私はゴールドですがm(_ _)m)

分かっていても、業者は「早く契約したい」、買主は「業者に任せたから安心」と思いがちで、そこにヒューマンエラーが起こるんですね。

とかく最近は、誰かに責任の全てを負わせよう、という傾向が強いように思います。

本事例では明らかに売主の担当者の怠慢が原因ですが、長く不動産を扱ってると、法律では線を引くことができない過失割合というのも、現実あります。

不動産取引は、売主、買主、業者の3者がお互いの目線で注意をし、気を付け、時には譲り合うことでなされるものだと思います。言えばキリがないことは、たくさんありますから。

そうしないと、例えば中古の戸建だと、買主に屋根裏まで上がってもらわないといけなくなってしまいます。そこで怪我をすれば誰が責任を持つのか、不動産業者も屋根裏に上がる技術は持ってません。

結局はその場合、シロアリ検査と雨漏り検査を入れ、必要であればハウスインスペクション、その結果を信じてもらうしかないんです。

とは言え、一生に数度しかないような不動産取引で不慣れな方がほとんどですので、なるだけ知識を増やし、安全安心な売買ができるように準備しておきましょう。

この記事を書いた人
薙野 秀貴 ナギノ ヒデキ
薙野 秀貴
お釈迦様の有名なエピソードですが、ある日弟子が「良き友を得ることが聖なる道の半ばだと思えるのですが?」と訪ねたのに対し、お釈迦様は「道半ばではない、聖なる道の全てだ」と答えたそうです。ここで言う「良き友」とは、人生上で起こる様々な苦しみや悩みから解放してくれ、同時に学びや喜びを共感してくれ幸せを気づかせてくれる存在です。それは時に上司だったり部下だったり、先生だったり師匠だったり、旦那さんや奥さんであったりするかもしれません。それをお釈迦様は人生で最も尊重しうる「友」としたのですね。 インターネットやSNSの浸透で、より早く、より膨大な量の情報、そして人へのアクセスが可能になりました。 その中から種々選択する毎日に追われ、現代は、情報化社会から選択社会になったかのように感じてしまいます。 令和が始まったそんな時代、我々も不動産という仕事を通じて、皆様にとっての「良き友」に少しでも近づくことができるよう、努力して参りたいと思っております。
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