行政が及ぶ力とは
先日千葉県の松戸市で、県からの「休業指示」に応じないパチンコ店に対し、市長自らが赴き、自粛するよう要請しました。さらに、市の職員が「新型コロナウイルス『緊急事態宣言』発令中!」と書かれた横断幕を店舗前に掲げ、3密を控える要望が書かれたチラシなどを周囲で配ったりしていたことが、ニュースになってました。
さらに、開店前からマイクを持った人たちが付近に現れ、店やパチンコ店のお客さんに対し「帰れー!」「営業やめろー!」などと声をあげ、一時、怒鳴り合いなどにもなったそうです。
まさに世も末。いつからこんな節操のない国に落ちぶれたんでしょうかね。
ただこのニュース、幾つか気になる点があります。恐らく、同じような違和感を持たられた方、多いかと思いますが、それは、
行政がそこまで踏み込んでいいのか
という点です。
パチンコという業種に関しては、賛否両論あるのは分かってます。
そもそも賭博行為自体が刑法第185条・第186条で禁止されており、それを「パチンコ店・景品交換所・景品問屋」の3店により無理やり合法化のように見せかけ、取り締まりを逃れてる業種です。遊興物で遊んで景品をもらい、たまたま近くにあった景品交換所でそれを売り、その景品を今度は問屋が買い取り、パチンコ店に卸す、という仕組みですね(3店方式)。また、関連団体の天下り云々の話しも、少なからず関係はあるでしょう。
ただ、それは別の法律で取り締まるべきであり、現状は、あくまでも合法です。
それではこのコロナによる問題の違法性はというと、もちろん新しくできた特措法、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」によるものです。
第24条で、
都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策 9 を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対 し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をする ことができる。
さらに、第45条で、
2) 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフル 2 エンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民 経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏 期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学 校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興 行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。) その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用し て催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の 使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措 置を講ずるよう要請することができる。
3)施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康 を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認め るときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示 することができる。
4) 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
とあります。
千葉県では、この特措法に基づき、まず「施設の使用停止(休業)」の「要請」を行いました(2項)。しかし、それに従わなかったので「指示」を行いました(3項)。
同時に、その施設名、所在地を県ホームページにおいて公表しました(4項)。
新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第3項に基づく指示について(千葉県新型コロナウイルス感染症対策本部)
特措法の「休業の指示」という処分は、あくまでも「指示ができる」というだけのもの。
それに従わなかったからといって罰則がある訳ではありません。
そうなると、この千葉県からの要請は、
「行政庁が、行政目的を達成するために、助言・指導等の非権力的な手段を行使することにより、国民を行政庁の意図する方向へ誘導する事実行為」
ということになり、これを行政指導と言います。
この行政指導には、法的な効力はないのですが、公の権力を背景として国民に服従を強制してる、という点で、法律による行政の原理に反する、という批判が兼ねてからあるのです。
法律による行政の原理とは…行政活動は法律に基づいて、法律に従って行われなくてはならないということ
行政指導=国民に強制してる部分がある=行政の原理に反する
行政の原理には3つあります。
①法律の法規創造力…法律だけが法規を作ることができる
②法律の優位…法律に従って行政活動を行わなければならない
③法律の留保…法律の根拠が必要な行政活動は?
③については諸説あるのですが、現在は、侵害留保説が主流となってます。
これは、国民の権利を制限したり義務を課すような行政活動にだけ、法律による根拠が必要だという考え方です。
改めて千葉県の問題を振り返ってみると、
何度も「休業を要請したが、従わなかった」
だから「横断幕により休業を要請した」
それでも従わないので「公表した」わけです。
そこで気になるのは、この「横断幕による休業の要請」が「公権力による休業の強制」に当たり、それが憲法29条に違反するのではないか、という点です。
【憲法29条】
財産権は、これを侵してはならない。
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
ちなみに特措法の目的は、
国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、 新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病 状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及 ぼすおそれがあることに鑑み…(後略)
です。
私がどうしても違和感が取れないのは、「おそれ」があるだけで、実際に公共の福祉に反した実体が無いのに、行政指導により休業を強制することが是とされてしまなわないか、という点です。
横断幕で、マスコミが諸悪の根源かのように報道すれば、パチンコ店は休業せざるを得ません。いや、休業しないまでも、企業イメージを大きく損ないます。それが宣伝になってる、というご意見もありますが、少なくとも社会的には分断されます。
そんなことを行政がやっていいんでしょうか。
「公共の福祉に反する」の典型例は、風俗営業店を小学校の横で営む、ようなもんです。
そんなに休業させたいなら、警察を使って、営業許可自体を取り消す処分をするべきではないでしょうか?
でも、さすがにそこまでやる根拠が無い、補償もできない、憲法29条を盾に国家賠償請求されたくない、のでしょうか。
そもそも、千葉県の行政手続条例にも、行政指導の一般原則として、任意性と不利益な取り扱いの禁止が規定されてます。
パチンコという業種自体の違法性(刑法違反)は、あくまでも別の法律によって取り締まるべき、だとは思います。
ただ、このコロナウイルスによる感染拡大防止のための休業指示処分については、やや見せしめ的な面がある気がしてなりません。
あまり行政が国民の生活に関与しすぎる前例を認めてしまうと、そこが基準になってしまわないかと、ちょっと不安な今日この頃です。

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