
通行地役権のトラブルQ&A
道路だと思ってた道が他人の土地であった場合、大変厄介な問題が起きます。
これから土地を買おうとする場合も、これから家を売ろうとする場合も、買う予定や売る予定がなくても、普段の生活の中であっても、周囲の道路や道が、どのような性質を持っているか、あらかじめ把握しておかなければ、後からでは取り返しのつかない問題にまで発展してしまうことがあります。
戦後の高度経済成長で急激な人口増に対応するために国の政策として住宅を無理やり増やし、その後のバブルも相成って、所有者不明の土地や道、行き止まりの道や整備が行き届いていない箇所などが全国各地に残っております。
それが、現在の人口減少局面において、浮き彫りになってきており、各地で訴訟になっているのです。
今日はその一つ、通行地役権に関する問題について。
以前も取り上げましたが、本日は別の事例を用いつつ、解説して参りたいと思います。
地役権とは
まず地役権とは、自分の土地の利益のために他人の土地を利用できる権利のこと、を言います。
この他人の土地を利用できる権利のうち、他人の土地を通行できるものを
「通行地役権」
と言います。
この時、利益を受ける側の土地を「要役地」と呼び、通行に供せられる側の土地を「承役地」と言います。

他人の土地を通行する為には、その土地を賃貸借(土地代を払って借りる)するか、使用貸借(無料で借りる)するかでも目的を達成することができますが、地役権というものを設定すると、これは直接的にその土地を支配できる物権の一つなので、賃借による権利より強力な権利で、使用することできるようになるのです。
物権…物を直接に支配する権利。地役権のほか、所有権、抵当権、占有権など。
また、賃借権による通行権だと、その土地については賃借人の独占的利用を認めることになるのに対して、通行地役権の場合は、地役権者(要役地の所有者)だけでなく、承役地の所有者もその土地を通行することができます。
通行地役権は原則として当事者の契約によって生まれます。その内容も当事者の意思によって決めることができます。また通行地役権を設定するには、他に通路があるかどうかとは無関係ですから、この点が囲繞地通行権の場合と異なります。
Q;自動車の通行は認められるのか!?
さて、ここまで理解した上で、表題の件について。
これは以前、長崎県青山町の住宅団地内で、福岡県の不動産業者が私道を買取り、住民の車両の通行を封鎖した件が話題になったことで、改めて取り立たされた問題です。
結局、狭い一部の市道が、最大4m幅まで拡幅されたことで、その付近の住民については一段落ついてるようですが、まだまだ生活に支障をきたしている方が90数名いらっしゃるということで、本裁判は続いてるようです。
経過についてはまたこちらでお知らせします。
さて、似たような事例を一つご紹介します。
問題となった私道は、昔からのもので、周辺土地所有者が土地の一部を提供しあって作られたもので、法律上は「二項道路」とされているものでした。
二項道路…幅が4m未満の道で、諸条件を満たし「建築基準法上の道路」とみなされたもの
Yはこの私道を進入路として自動車駐車場を作りました。そこでXらは、バイクを私道に置いてYの駐車場に出入りする契約自動車の通行を妨害したので、駐車場を利用する者がいなくなりました。
その後、XらはYにおける、駐車場の使用禁止を求め、他方YはXらに、自動車通行の妨害排除と駐車場で儲けそこなった金額の損害賠償を求めました。
さて、Xら、Yらの双方の請求は認められるのでしょうか?
という問題です。

狭い道での話なので、ごちゃごちゃしてしまいましたが、上の図で「二項道路」となってる部分に「通行地役権」が設定されてる、という状態です。
これは、二項道路が私道なので、その道路周辺の家や土地の住人、所有者は、その道路を通行するための地役権を持っている、ということになります。
この「通行地役権」を持つ者が通行を妨害される場合、妨害された通行地役権者は妨害排除の請求や、損害賠償の請求をすることができます。
長崎県の事例で、現在係争中の件は、これにあたります。
なんでもアリではない!?
ところが、上図のように、皆で私道を使っている場合、一人のわがままな使い方は、他の権利者(通行地役権を有する者)にとって迷惑になることがあります。
こうした時、どうしても、どこかで線引きをしなければならなくなります。
先ほどの例ですと、私道に自動車の通行がいつも許されるか(駐車場の利用で)のケースについて、通行地役権にも自ずと制約があるとして、
決してオールマイティではない=全てではない
と示されました。
ポイントは、
①自動車の通行が許容されるためには、
②一般的な自動車通行の権利を認めることを可能とする客観的な道路設備があること
が前提条件であるとする点です。
裁判所の判決
裁判所は、まず本件私道の客観的事実を次のように認定しました。
本件私道は、その両端が行動に通じているが、東急池上線戸越駅に近い行動に接続する部分の道幅は極端に狭く、その部分は自動車の通行はできない。
他方、中原街道に通じる部分は、かろうじて自動車の通行が可能であるが、道幅は約二メートルにすぎない。
Xらがオートバイを置くと、自動車が通る時、私道の人は塀にへばりついて避けなければならない。
私道に面する家には老人が多く住んでおり、散歩もするが、自動車が通ると大変危険である、等々。

車の乗り入れが頻繁にあると、歩行者の通行がままならなない、ということですね。
判決文では、続いて、
本件私道を開設した後の客観情勢の変動としては、自動車の利用が一般化したことがあげられる。(昔は自動車の利用が一般的ではなかった)
しかし、そのような変化を考慮に入れても、本件私道の幅員は(中略)自動車で通行することが可能で危険ではないというには、ほど遠い状況にある
として、前述の通り、自動車通行を可能にする客観的道路設備が無いので、Yの通行地役権には自動車の通行は認められないとして、Xらの請求を認め、Yの請求を認めませんでした。
結局、Yが所有する土地の駐車場としての利用が認められなかった、ということになったわけです。
最後に
このように、通行地役権が設定されているからといって、なんでも認められるわけではありません。
この事例では、「道路設備が行き届いてないから」が理由として挙げられておりましたので、今後二項道路のセットバックが進み、端から端までが4m以上で両公道に接続するようになれば、客観的道路設備がなされた、ということでまた判決も変わってくるものと思われます。
ただ、それが実現するのが何年先になるか、全く予想ができませんが。
係争中の長崎市の住宅団地の問題について、裁判所はどのような判決を下すのでしょうか。
ポイントは、
①通行料を取ろうとしている不動産業者の正当性
②通行地役権が及ぶ範囲
③水道などライフラインの敷設・補修工事の妨害禁止の是非
④精神的苦痛、肉体的負担についての判断
⑤不動産価格に与える影響
などなど、他にもまだありそうなので、大変注目されております。
もし仮に私道所有者の主張が認められるようなことがあれば(私道の使用料徴収が認められれば)、全国の同じような私道が「投資物件」になってしまいますし、付近の不動産価格は下落するでしょう。
意外と対岸の火事ではないこの問題。
今後また追っていきたいと思っております。