不動産売買のおいては、ほとんどの場合で契約時に「手付金」を交付します。
手付金とは、契約を交わすにあたり、当事者の一方から他方に対して交付される金銭等のことです。
不動産売買では基本金銭ですが、その種類や中身について、下の問いを参考にしながら説明します。
Q:不動産業者が売主の物件で、3000万円のマンションを買うことにして売買契約書を交わし、手付として800万円を支払いました。しかしその後、気が変わって、売買契約を解約したくなりました。売主である不動産業者はまだ引き渡しの準備などを行なっていないようですが、契約を解約することはできるでしょうか?
この問題、ポイントは大きく3つです。
①不動産業者が売主であること
②手付金の種類と金額
③解約の申し出のタイミング
まず、売主が宅建業者であるか、一般人であるかで大きく変わります。
支払った手付金の種類によっても、解約できるか否かが変わってきますので、契約時の説明をよく聞いておくようにしましょう。
申し出のタイミングについては、買主側から分かりづらい部分もありますので、併せて説明していきます。
手付金の種類
日本の法律では大きく分けて3つの手付金があります。
【証約手付】
契約締結の証拠として交付されるものです。いわゆる「証拠金」と同じもので、契約が途中で解約された場合には、返還されます。
契約締結の証拠という意味においては、次の違約手付も、証約手付としての性質を持っていると言えます。
【違約手付】
債務不履行の場合の損害賠償を予定して交付されるもので、手付を交付した者が債務を履行しない場合に、手付を受け取った者はこれを没収することができ、手付を受け取った者が債務を履行しない場合には、手付を受け取った者は、手付の交付者に手付の倍額を、損害賠償として支払わなければなりません。
【解約手付】
契約の一方当事者が解約権を留保することの対価として交付されるものです。
つまり、手付を交付した者は手付を放棄し、手付を受け取った者は手付の倍額を支払えば、一方的に契約を解約できます。
ただし、その解約のタイミングは、相手方が履行に着手するまでに行わなければならず、相手方が履行に着手した後においては、解約手付による契約の解約はできません。
自身が履行に着手していても、相手方が履行に着手していなければ、解約手付によ解約はできます。
解約権の留保とは、「契約の一方あるいは当事者が、契約を中途解約する権利を有する」ことです。
解約手付は、その対価として交付されるもので、不動産業者売買では一般的にこちらになります。
また、宅地建物取引業者(不動産業者)自らが売主である場合は、必ず「解約手付」となります。
またこの場合、受け取れる手付金の額も2割以内と決まっております。
「履行の着手」とは
「解約手付」は、契約を中途解約する権利の対価として交付されるものですが、中途解約を申し出るタイミングは、「いつでも良い」というわけではありません。
それは、「相手方が履行に着手するまで」とされてますが、その「履行の着手」とは、
客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くこのとできない前提行為をすること
です。
中古住宅売買における具体例でいうと、
<売主側>
・転居先への引っ越しや荷物の運び入れ(大型のもの)
・抵当権の抹消手続き
・境界確定手続き
<買主側>
・工事(建築、リフォーム等)に向けた手続き
逆に、「履行の着手」と認められなかった判例として、
・売主から買主への鍵の交付
・司法書士への登記手続きの委任
・金融機関への融資の申し込み
などがあります。
内金とは
内金とは代金の一部を支払うことを意味する金銭で、手付とは違うものです。
なので、内金を支払ったのちそれを放棄しても、契約の解除はできません。
あくまでも「代金の一部」ですので、相手方に債務不履行があっても、それだけで直ちに内金の返還請求や、倍額の支払を請求することはできません。
「内金」か「手付金」かは、大きくその性質が異なりますので、交付する金銭が何を意味するのか、注意しておくようにしましょう。
領収書は
手付金は、もちろん最終代金の一部に充当されますので、特に問題なく契約が進んだ場合は、決済時、「手付金」と「残代金」とに分けて領収書が発行されます。
また、手付金を「預かり金」とした場合でも同様ですが、領収書の「但し書き」部分が、「代金総額」となります。
最後に
以上を踏まえ、最初の問いを考えます。
Q:不動産業者が売主の物件で、3000万円のマンションを買うことにして売買契約書を交わし、手付として800万円を支払いました。しかしその後、気が変わって、売買契約を解約したくなりました。売主である不動産業者はまだ引き渡しの準備などを行なっていないようですが、契約を解約することはできるでしょうか?
タイミングとしては、相手方(売主)が履行に着手する前であれば、手付600万円(3000万円の2割)を放棄して契約の解除ができる、ということになり、差額の200万円については返還請求できます。
履行着手後は、放棄しても手付による契約解除ができなくなるため、また別の方法を取らなくてはならなくなります。
この場合の「違約金や損害賠償の予定額」、売主が不動産業者の場合は2割までとなっていますが、売主が一般の方であれば、特に決まっておりません。
不測の事態に備える意味でも、契約時、交付する金額の種類と内容を双方でしっかりと確認し合うことが、とても重要であります。