2020-05-07
前回の続きで、今回は「第三者弁済」の、特に「債権者の意思に反する弁済」について例をあげながら説明したいと思います。
実務でも起こり得そうなことなので、前回同様、例をあげながら見ていきましょう。
債権者の意思の取り扱いは
正当な利益を有しない第三者からの弁済は、「債務者の意思に反するか否か」によってその有効性が決せられるのが、一応の原則です。
改正前の民法では、そこに「債権者の意思」を反映させるような規定がなく、債務者の意思に反するかどうかも、債権者には分からない場合もありました。
すると、本当は債務者の意思に反してないのに、それが分からずに債権者が受領拒否をしてしまうと、債権者に受領拒絶の責任が発生することになってしまいます。
不動産の例で言うと、家賃滞納があって、誰か知らない人からその家賃を払うという連絡があった際、受け取っていいものなのかどうか、などです。
債権者(大家)の立場からすると、受け通っていい場合と受け取れない場合をはっきりしてもらわないと、揉めた時に立場が弱くなってしまいます。
そこで改正民法で、一定の決まりがなされたのです。
弁済可能な場合とは
まず、「弁済につき正当な利益を有しない第三者」からの弁済は、債権者は拒絶可能となります(改正民法474条3項)。
拒絶もできるし受け取ることもできるのですが、第三者からすれば、
債権者の意思が優先
されるわけです。
債権者の意思次第ですので、弁済しても後から拒絶されたのであれば、手間だけかかって、余計なトラブルの元にもなりかねないので、そんなリスクは負わない方が良いでしょう。
ではどうすれば、弁済ができるのか、について、
ただし、債務者からの委託を受けて弁済する際、債権者がそのことを知っている場合には、債権者の意思に反しても弁済できる(改正民法474条3項)
となりました。
弁済につき正当な利益を有しない第三者であっても、債務者からの委託を受けているのであれば、この第三者は弁済につき正当な利益を有することになりますが、要件としては、さらに債権者がそれを知っていることが必要なのです。
現実の世界では
なので、いくら弁済を委託していても、債権者がそれを知らなければ拒否されることになります。
さきほどの不動産賃貸の例ですと、賃借人は大家に「○○に返済を委託しますよー」と知らせる必要があるのです。
それを知らせれば、いくら他人でも「弁済につき正当な利益を有する第三者」と考えられ、大家もそれを認識するので、弁済拒絶できない、状態になります。
知らせ方は、口頭でも良いはずですが、あとで揉める心配をするのが嫌であれば、念のため、「口頭+メール」が良いでしょう。
メールは、裁判になっても証拠になるので、活用するべきです。
他の例では、先日も使いましたが、
債権者:イベントの主催者
債務者:歌手A
第三者:歌手B
あるイベントで、歌手Aが歌うという債務を負っていた場合、その歌手Aが不慮の事故で出演できなくなりました。歌手Aが歌手Bに代わりを依頼し、それを主催者に伝えて主催者が了承すれば、法律上ではその債務(イベントで歌う)を歌手Bが代わりに負うことができる、というわけです。
ただ、主催者が、「歌手Bではダメだ」と主張した場合(弁済拒絶)、どうなるのかということについてですが、基本はその拒絶はできないので、現実では別途、契約の特約などで「不慮の事故等で歌手Aが出演できない場合は金銭の給付で損害を補償する」などの免責が附せられることになるでしょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。
簡単に見えて、実はそうでもない、複雑な認知の様態が3者の間で絡みます。
先日の「債務者の意思に反する場合」と比較してみると、違いがはっきり見えてきますので、この機会にどのような債権債務関係が新しく規定されたか、触れてみるのも良いかと思います。
何れにしても、今春の債権法の改正、これまで「何となく」便宜的になされてたものを明文化したものが多いです。
これからも、できるだけ実社会でも役に立つようなものを中心に紹介していこうと思ってます。
それでは