2020-03-31
賃貸借契約における民法改正のポイント
本日は年度末。
暗い世相ですが、明日からはいよいよ改正民法が施行されます。
120年来の大改正ということで注目されてますが、実務上は、こちらのホームページでも何度かお伝えしてるように、判例などを根拠にしつつ、その都度なんとかかんとか辻褄を合わせてきました。
その部分が今回明文化、というのが大きな焦点です。
細かくは色々あるのですが、なるだけ不動産取引に関するものをピックアップして解説しております。
今期は「不動産賃貸借」について。
ざっくりと項目を分けて説明いたします。
敷金に関するルール
不動産賃貸借では、借主から貸主に対し、「敷金」が支払われることが一般的ですが、「敷金の返還」については、旧法に規定がありませんでした。
これらについては紛争が絶えず、たくさんの判例や業界の取り組み(ガイドライン)を通して一つ一つ、解決していたのですが、画一的な指針として、今回の改正により一定のルールが規定されております。
①敷金とは、賃借人の債務を担保するため、賃借人が賃貸人に交付する金銭であること
②賃貸人が、敷金から賃借人の債務を控除した残額を賃借人に返還しなければならない時期は、賃貸借契約が終了しかつ物件の返還を受けたとき、又は、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときであること
③賃貸人は、賃貸借期間の途中でも、賃借人の債務弁済に敷金を充当できること。他方、賃借人から賃貸人にそれを請求することはできない。
賃貸不動産が別の人に譲渡された時(オーナーチェンジ)の規定
これは私も経験がありますが、借りてる側からすれば、敷金は誰から返してもらえば良いのか、とか、解約の申し出を受けた時どうなるのか、この辺りもこれまで民法に規定がありませんでした(確か、この時不動産会社に尋ねたところ茶を濁された記憶がありますが…)。
以下のポイントについて明文化されました。
①賃借人が物件引き渡しを受けたり賃借権登記をした後に、不動産が譲渡された場合、原則として賃貸人の地位は不動産譲渡人から譲受人に移転する
②この場合、敷金返還債務、必要費及び有益費償還債務も譲受人に移転する
③譲受人は、不動産の所有権移転登記をすることで、賃借人に自分が賃貸人であると主張できる。
例えば、借家を借りていて雨漏りを自分(借主)で直した場合、その費用を賃貸人に請求できるわけですが、そのような場合は新賃貸人に対して請求する形となります。
賃貸人の地位の移動
原状回復について
おなじみの原状回復について、
賃借人は、通常損耗や経年劣化による損傷を原状回復する義務はなく、それ以外の損傷も賃借人の責任でなければ原状回復する義務を負わない
ただ、改正後でも賃借人が原状回復義務を負う範囲を特約などで特定すれば、賃貸人はその範囲において賃借人に請求する(敷金充当など)ことができます。
一部滅失等による賃料減額請求権
実際にあった事例なのですが、借地の一部が地盤沈下で使用できなくなり、その分の地代を減額できるか、もしくは舗装してもらえるかの相談があったことがあります。
「地盤沈下なので、借主の責任ではないのは明白」かに一見思えますが、借主が、何十トンものトラックを、1日に数十回乗り入れをしていた業者だったので、貸主からすれば、自然現象ではないだろうという主張でした。
この例は土地ですが、借家についても、使用できなくなった範囲で家賃が「当然に」減額されることが明記されました。
また、その使用できなくなった範囲が広く、賃借人が借りた目的を達することが困難になったような場合は、その原因が賃借人であろうがなかろが、契約を解除することができる、と明文化されました。
①賃借人の責任によらずに賃借物の一部が使用できなくなった場合、家賃は使用できなくなった割合で当然に減額される。
②賃借物の一部が使用できなくなって残存部分では賃借した目的が達成できない場合は、それが賃借人の責任による場合であっても、賃借人は、賃貸借契約を解除できる。
どちらに帰責事由があっても契約解除ができるということは、賃貸人にとってはリスクですが、その部分については損害賠償請求で解決を計ることになるようです。
実際には、契約解除することによるデメリットは双方に起こり得るので、条文通りにいかないことも多そうではありますが、上の例の場合だと、結局は双方が歩み寄り、舗装修理代を分けあうことで解決に至りました。
退去時に、自分が取り付けたものは?
例えばエアコンなどが典型的ですが、これまでは賃貸中に借主が取り付けたものは、「賃借人が撤去する権利がある」となってました。これが、改正民法では義務化され、
賃借人は、自ら建物に取り付けた物で取り外しが可能なものは、退去時に撤去する義務がある
となってます。同じエアコンでも、天井裏にアンカー打って吊ったような業務用エアコンは撤去の必要はありませんが、基本、賃貸人から撤去するように言われたものは、撤去しなければなりません。
撤去できないようなものについては造作買取請求権を使って賃貸人にその価値の残る範囲でかかった金額を請求することができるのですが、それも契約時の特約などで「造作買取請求権を放棄する」などとなってる場合が多いので、注意が必要です。
修繕義務について
これはもちろん賃貸人です。ただ、賃借人に帰責事由がある場合(賃借人が壁を壊した等)は、賃貸人に修繕義務は発生しません。この部分が明文化されました。
①賃貸人は修繕の義務を負うが、賃借人の責任で修繕が必要となった場合はその義務を負わない
②賃借人は、次の場合は自ら修繕できる。
・修繕が必要なことを賃貸人に通知してから、又は賃貸人が修繕が必要なことを知ってから、相当期間が経過しても賃貸人が修繕しないとき
・急迫の事情があるとき
これに関しても、賃貸借契約時、双方合意であれば違った内容で契約することは可能です。明文化されたことで、「争いになった場合は民法が適用される」場合もあるぐらいで思っておけば良いと思います。
ただこれも、「賃借人の責任」の範囲や特定、相当期間とはどのくらいか、急迫の事情かどうか、などについて、それぞれ主張が異なりそうなので、今後の判例を見守る必要がありそうです。
賃借物件の妨害者がいた場合
賃借人に妨害排除請求権はあるかの問題です。これまでは賃借人は賃貸人に対する債権を有するだけなので、そこまで認められるか、議論がなされるところでしたが、その点が明文化されました。
物件の引き渡しもしくは不動産賃借権の登記をした賃借人は、第三者が当該不動産の使用を妨害しているときは、賃借人自ら、妨害をやめるよう請求できる
損害賠償を請求できる期間とその消滅時効は?!
例えば、借主が契約違反をして何かの損害が発生した場合、貸主はその修理代を請求できるわけですが(借主の帰責事由)、それが旧法では、「損害が発生した時から10年」もしくは「賃貸人が目的物の返還を受けてから1年」のいずれか早い方で時効消滅してました。
それだと、長く賃貸してる場合、賃貸人が返還を受けてその損害を発見しても10年の消滅時効にかかっており、請求ができない、という事態が起こってました。
そこで、
①契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない
②前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない
このように明文化されました。これにより、一年以内であれば、賃貸人は賃借人に請求できるようになりました。
連帯保証人に関する改正も
保証契約は
まず極度額について、旧法では、貸金に関する根保証のみ極度額を定めなければ無効とされてましたが、改正民法では、全ての根保証に対し、極度額を定めなければ無効、と変わりました。
これを受けて、賃貸借契約の保証人についても、極度額の設定が必要となりました。
こちらも、極度額の定めがなければ無効となってしまいますので要注意です。
また、事業上の債務について保証や根保証を委託する場合には、借主から保証人に対して、借主の財産及び収支の状況等の情報を提供することが義務付けられました。
これまでの契約についてはそのままの保証契約が継続されますが、更新の場合はどうなるかについて、法務省は、新たに賃貸人が保証人に対して契約更新の署名押印をもらう場合は改正民法が適用となり極度額を定めなければ無効、という見解だそうです。
ただ、賃貸人と賃借人の間で、更新の確認書を交わすのみであれば、従前の契約内容を引き継ぐことになりますので、保証契約についても従前のままとなります。
極度額があった方が有利なのは、通常は保証人、極度額なしに催促できる点で有利なのは、通常は賃貸人の方なので、その辺りを考慮しつつ、保証人の実在の確認も含め、どのような更新をするか、検討されるのが良いと思います。
その他、詳しくは「【連帯保証人にとっては有難い民法改正!?】」をご覧ください。
最後に
いかがでしたでしょうか。
不動産取引での民法改正におけるポイントを、これまでいくつかコンテンツに分けてあげさせていただきましたが、カテゴライズの仕方で多少内容がダブってる部分もあるかとは思います。
その辺は、違った視点や事例があった方が、よりわかりやすいかとも思いますのでご了承いただければと思います。
また、今回の大改正、不動産以外の部分での変更点も多々ありますので、これからまた少しずつ書いていこうと思ってます。
なるだけ生活や普段起こりそうなこと例にしながら解説していこうと思ってますので、是非ご参考にしていただけたらと思っておりますm(_ _)m
それでは