2020-03-27

今回の民法改正では「錯誤」の取り扱いについて、大きく分けて下記3つのポイントがあります。

①  錯誤は無効 → 錯誤は取り消すことができる に変更
②  第三者保護規定
③「要素の錯誤」「動機の錯誤」が明文化されたこと

②についてはまた別の機会で説明いたします(とても長くなるので)が、本日は①と③について解説したいと思います。

と申しますのも、実際の契約ではこの①、③についてがもっともトラブルが起こりやすいと考えられるからです。

例をあげながら見ていきましょう。

法律行為とは

大きなショッピングモールの建設予定がある地域の付近で、土地の購入のための売買契約をしたところ、購入から半年後、ショッピングモールの建設が中止となってしまいました。

この場合、契約を取り消すことができるのか

これが一般的な不動産売買における錯誤の問題であります。

錯誤、いわゆる「勘違い」があった場合、その契約を取り消せるのか、という話しのですが、現行法ではまず一般的に錯誤は無効でした。

それが錯誤は取り消すことができるに変わったのですが、どういう場合に取り消せるのか。

現行法では、「法律行為の要素に錯誤があった」場合です。

法律行為とは上の例でいうところの契約行為です。契約行為というのは、書面にサインをするときではなく、実は「売ります」「買います」の意思表示だけで足りるとされています。

つまり、土地を〇〇円で売ります、それを買いますという意思表示が合致した時点で、契約自体は成立しているんです。それを後々、確認し合うために「契約書」を交わしていると解釈すれば良いでしょう。

その時に「錯誤」があったか、が取り消せるか取り消せないかの分かれ目になります

背景から読み解くと

そもそもなぜこのような改正があったかという点ですが、錯誤があった場合、それを主張して契約行為を無かったものにしようとする人(表意者)は、上の例では、基本的には買主です。

買主の瑕疵(注意不足)が原因なので、契約自体が無効というより、後からそれを取り消すという表現の方がしっくりきます。

詐欺や恐喝などに遭い、そもそも契約自体が最初から無かったものにする場合は、無効です。

それとは性質が違いますよね。

そこで現行法でも、通常の「無効」の扱われ方とは区別すべきという意見が多くあり、「取り消し無効」とも言われていました。

「取り消し」の要素(性質)が強い「無効」というわけです。

要素の錯誤とは

そこで、前に話を戻しまして、「法律行為の要素に錯誤があった」場合の「要素の錯誤」とは、意思表示そのものに、

①意思表示をした人が、錯誤がなければその意思表示をしなかったこと

②一般人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうことが認められること

が、現行法上の要件でした。その場合は「無効である」と判断されてきたのです。

改正民法では「要素の錯誤」という言葉自体が消え、錯誤が取り消せる要件を明文化しました。

a) 意思表示が錯誤に基づくものであること

b) 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること

動機の錯誤とは

現行法では動機の錯誤=無効となるものではなく、例外的に、「その動機が意思表示の内容として表示されている」場合に、その法律行為を錯誤により無効とすることができる、とされてきました。


それが改正民法では、

c) 動機錯誤については、動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること

が要件であり、その場合は取り消すことができると規定されました。

例えばシャネルのバックを買うという意思表示をした人が、間違ってヴィトンのバックを買ってしまった場合、

店員にはっきりと「シャネルのバックを買いたい」という意思表示が伝わっておれば、後から取り消すことができるというわけです。

バックを買うという法律行為の基礎が→シャネルであること、

前の例で言うと、

土地を買うという法律行為の基礎が→近くに大きなショッピングモールが建設されること


この動機の部分に錯誤があった場合は取り消すことができることになります。 

実際の売買契約では

一番前に戻りまして、

大きなショッピングモールの建設予定がある地域の付近で、土地の購入のための売買契約をしたところ、購入から半年後、ショッピングモールの建設が中止となってしまいました。

この場合、契約を取り消すことができるのか

この問題ですが、まず、動機の錯誤は認められます。ただし、それが表示されている必要があります(改正民法95条2項)。

したがって、売買契約上で

「近隣に大型ショッピングモールが建設される」という事情が、売買契約の基礎とされていることを明確に表示していた場合に限り、動機錯誤に基づく売買契約の取り消しができる

ということになるわけです

これも買主有利な気がしないでもないですが、当然、売主側も断る権利を有してますので、そのような条件下での契約を避けたいのであれば、契約自体をしなければ良いです。また、こういう場合は、ショッピングモールが建設されるかされないかの不確定要素が絡む時点で、それを動機とする契約自体が危険だと判断した方が良さそうです。

最後に

例をあげつつ、現行法と改正民法を照らし合わせながら見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

普段馴染みのない使われた方をする言葉が頻繁に出てくるので、ちょっと分かりづらかったかもしれませんが、実務上では、

【買う側】

特別に買う理由がある場合はそれをはっきりと仲介業者や売主に伝えておくこと

例)周りに建物が無いから

→売主は、将来周囲に建物が建つ可能性があることを納得してもらった上で契約書を交わすこと

【売る側】

買う意思の基礎的な要件の中に、不確定要素があった場合は、要注意!

例)「前面道路が舗装されて広くなると聞いたから買いたい」などのような場合

→買主は、あまり重要でないことまで条件提示すると、売ることを拒まれる可能性がある

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