2020-03-23

今年の4月から施行が始まる改正民法。これまでの契約はそのまま引き継ぎですが、これからの契約はもちろん、更新の際に契約書の条文が変わってる場合も十分あり得ます。

というのも、契約自由の原則(私的自治)というものがあり、基本的には貸主と借主が合意してればどんな契約でも有効なのですが、揉め事を防ぐ目的で借地借家法や民法というものがあり、それが改正されてるので、貸す側も借りる側も、ご自分に必要だと思われる部分については知っておく必要があります。

というわけで、何回かに分けて、この改正民法について説明しております。

今回は賃貸借契約における「修繕」とそれに伴う「賃料減額」などについてです。

原則は賃貸人に修繕義務

もともと、賃貸人による修繕義務については、現在の民法下でも規定されていたのですが、但し書きが追加されました。

「賃借人の責めに帰すべき理由」があった場合は、賃貸人に修繕義務はありません。どちらに責任があるかによって変わります。

例えばお風呂の換気扇が壊れたとして、24時間365日、換気扇を付けっぱなしにしてて壊れた場合、どちらが費用をもつのでしょうね。

表記が「24時間換気」などであれば、通常の使用ということになるので貸主(大家)でしょうが、普通の換気扇であれば、通常の使用とは言い切れないと思います。

その場合は、この「但し書き」部分を持ち出して、「民法が変わり、賃借人に帰責事由がある場合は、賃借人にも負担義務が生じますよ」と説明できます。

これまでと変わらないのですが、民法に明文化されたことで、ただ契約書に記載があるだけよりは効力は強まったと言えそうです。

賃借人に帰責事由がある場合

原則は賃貸人が負担ですが、賃借人に帰責事由があるときは賃借人が負担、ということはお分かりだと思いますが、賃料の減額や必要費の償還、原状回復義務についてはどうでしょうか。法務省の『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』によると、

①賃貸人の修繕義務
②目的物一部滅失の場合の賃料減額
③賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権
④修繕が必要な損傷部分に係る賃借人の原状回復義務

の4つ分けてざっくりとまとめられてます(以下表)

帰責事由の内容や範囲については、別に特約である程度定めておいた方が良いと思います。この辺も物件や契約によって異なってくるものなので、契約当事者同士で落とし所を見つける必要がありそうです。

賃借人の修繕権

次に、改正民法607条の2(賃借人による修繕)について。

こちらは、「賃借人にも修繕する権利がある」ということが明文化されたものです。

ここで大事なのは、

①借りてる側が貸主に対し、修繕が必要である旨を通知しなければならないこと

②さらにその通知を受けても貸主が相当の期間内に修繕しないとき

この2つを満たして初めて賃借人が修繕できる、ということになります。通知をしても貸主が修繕をしなかったことについては立証責任があるとされており、この辺りは仲介業者を通してのやり取りでも良いかと思います。

ただ、不要な部分にまで及ぶ過剰な修繕などがなされる可能性もある為、修繕権を行使する為の条件であったり、範囲や金額、業者等についても、事前に打ち合わせておいた方が良いでしょう。

例えば、


「賃借人は賃貸人に対して修繕を請求する際、その箇所、必要性及び見積金額を書面により明示し通知したうえで、事前に賃貸人からその承諾を得たときに限り、当該修繕をすることができる」

このような文章を入れておくと良いと思います。

賃料の減額請求について

現在の民法下では、借りている建物の一部が使用できなくなった場合などにおいて、その理由が「滅失」の場合は、賃借人側から賃料減額請求ができる、とされてました。

それが改正民法により、「滅失」「その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合」のいずれかで、賃借人に帰責事由がない場合は、賃借人側からの請求がなくても当然に、「その割合に応じて賃料が減額される」となりました。

これは、改正により、実務上ではより複雑になったようにも思えます。

まず、

「滅失その他の事由」の「その他の事由」の範囲が定まってない

次に、

「その割合に応じて」が金額算定しづらい

この2点です。

滅失だけなら面積で按分できるのですが、使用収益分の請求ができるとなると、その根拠を求める「計算式」が必要です。

言い分も異なるでしょうし、この2点について、今後判例や実務上の事例で持って対応を協議して行くしかないようです。

契約の解除について

次に第2項について、現行民法下では「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失した」場合のみ賃借人による解除を認めるとなってました。つまり、賃借人に帰責事由がある場合は解除できない、ということです。

それが、改正民法では、第1項同様、「滅失」以外、「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」、賃借人の帰責事由を問わず解除できることとなりました。そのためには、「残存する部分のみで目的の使用収益ができないこと」が条件となります。

これだと賃貸人が損害を被りますが、そこは損害賠償の請求で対応する、ということになるようです。

その他の賃料減額請求権は

現行では「収益を目的とする土地」全般において、賃借人の減収による賃料減額請求権が認められてましたが、これが改正民法により、「耕作又は牧畜を目的とする土地」に限定されました。

これはもともと削除要請が出ててものを、農地法で規定されている農地などの賃借人を保護する目的のものです。

「耕作又は牧畜を目的とする土地」以外の収益連動型や歩合型の賃料については現行通り、別途特約等で定めること認められます。

全部が滅失してしまったら…

賃借人の帰責事由なく賃借物が全部滅失してしまった場合、契約はもちろん終了です。

これは現行民法では特に条文が無かったのですが、判例ではこのようにしておりましたので、改めて改正民法で「賃借不動産の全部滅失その他の事由で使用収益できなくなった場合」は、契約は終了です。

最後に

今回のテーマについては、主に「これまで慣習だったものが明文化された」ものが多かったですが、借主の側からの通知と承諾で修繕ができるという点は、以前には無かったものなので、若干注意が必要です。

何れにしても特約などで、事前に打ち合わせておくことが、トラブルをできる少なくするためには有効ですので、改正民法を参考にしながら、新しい契約書の中身を精査していただくと良いかと思います。

賃貸人・賃借人の修繕義務及び賃料減額請求などについて 〜改正民法〜

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