本日は実際にあった紛争事例を一つご紹介します。

こちらは建築条件付きの土地を買った方の例です。

①買主は大型ミニバンが1台駐車できる家を建てたくて土地を探していた
②大型ミニバンが停められてる建築プランが載ったチラシを見つけ問い合わせ。
③媒介業者(不動産会社)より、「大型ミニバンが駐車・入庫できる」ことを確認。
④売買契約(建築条件付き土地売買)。
⑤引き渡し(代金清算)後、中型のミニバンすら入出庫できないことが判明
⑥買主は5年後に「媒介業者の説明義務違反」として損害賠償を請求。

というものです。
現地の状況は以下の通りです。

さて、問題はこの「損害賠償請求」が認められるか否か、です。

ポイント⑴
媒介業者による口頭での説明の効力は!?

ポイント⑵
重要事項説明書(もしくは契約書)に、「車種によって入出庫ができないものがある」旨の記載があるか

ポイント⑶
チラシに「あくまでも参考建築プラン」であることが記載されているか

このような不動産売買の裁判の場合、通常「買主が購入する目的を達せられてるか否か」が判断基準として見られます。本事例では当初から買主は「大型ミニバンの駐車が可能かどうか」を媒介業者に尋ね、媒介業者より可能である返答をもらったと主張したが、媒介業者はそれを否定してます。
これは口頭でのやり取りなので、言った言わないの水かけ論。
裁判では日付入りの映像音声などがない限り、証拠の材料にはなり得ません(ポイント⑴)

次に重要事項説明書の内容ですが、本契約においては重要事項説明書内に、

「本物件の車庫スペースに駐車する車種は、買主の判断によるものとします。なお、本物件の車庫スペースには一部の車種が駐車できない場合があります。また、本物件までの道路事情などにより利用が制限される場合があり、入出庫の際、切り返しが数回必要となることもあります。」

と書かれてあり、その旨は口頭でも説明されておりました。
裁判では、「重要事項説明書に書かれてることは、その説明内容を買主は十分に理解した」と解され、一部の車種が駐車、入出庫できないことや利用に制限があることは、買主は承知の上で契約したと見なされたのです(ポイント⑵)

最後に、チラシに書かれてることの効力についてですが、確かに「大型ミニバン」が駐車されてる図面が描かれておりますが、これはあくまでも「参考建築プラン」であり、「大型ミニバンの入出庫が可能であることを確定的に述べるものではない」とされました(ポイント⑶)

つまりこの判決損害賠償は認められなかったのです。

本事例が掲載されていた「(一財)不動産適性取引推進機構」では結論として、紛争を避けるために、

◆売主事業者や媒介業者(不動産業者)としては、本事例の重要事項説明書のような記載を設けるだけでなく、広告や商談時から慎重な説明をしましょう。

とまとめられておりましたが、このような類の紛争は実際、数多くあります。
入出庫はできるがドアが開けられず乗り降りができなかった例や、動かせると聞いていた電柱が動かせなかった例などです。

私が買主の立場で考えれば、本事例の場合、口頭であっても商談時に「大型ミニバンが停められる家を建てたい」という条件を話しているので、その後に作られた重要事項説明書も、担当の方がそれに沿う形で作ってくれた、と誤解するのも無理はないように思うのです。

結局この裁判では請求は棄却となり買主は小型の車を利用しているようですが、安い買い物ではないですし、一生に一度か二度、あるかないかのような売買契約です。

媒介業者(不動産業者)も慎重に説明したとは思いますが、それでも買主に伝わっていなかった、それは買主の当初の購入目的から逸脱していたことには変わりありません。

中古住宅の売買(売家)の場合によく聞かれる目的の内容としては、

◉2階にトイレを付けられるか?
◉駐車場の造成工事で2台分のスペースが確保できるか?
◉将来建て替えはできるか?

などがあります。トイレについては、実際に業者を呼んで排水管の位置や設置場所から可否を確認します。駐車場も同様で、金額も含めて見積もりを出します。
建て替えについては、基本的に市街化調整区域外であれば可能な場合が多いですが、エリアによっては将来、法令が変わってる場合があり得ますので、条文や特約にその時の法令に従ってください」のような文言が入ってます。

このような不動産売買特有の言い回しや契約の方法を、素人目線で相手に説明することが、業者としては重要なのではないかと思います。

売主が物件を売却したり賃貸に出す場合においても、不慣れな方は口頭で伝えたからと安心せず、売却金額、荷物の撤去条件、外回り(庭石、外構など)の処置、損耗箇所等々が、媒介契約書などの書面で文字起こしされているか、確認が必要です。

損害賠償の金額も決して小さくはない不動産売買ですので、この事例を参考に、今後お役立て頂ければと思います。

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