2022-01-29
特殊な二項道路

今日は実際にあった道路で起こったトラブル事例を参考に見ていきます。
普段気にしていなくても、建物を建て替えたり増築したりするときなって初めて、その建物を購入したときに聞いてなかったもの、あるいは、別の説明を受けていたことが判明し、それが思わぬトラブル(紛争)の元になる場合があります。
それが、法令や条例の改正によるものであれば、それに沿った内容で増改築や建て替えをする必要がありますが、そもそも「違った説明を受けていた」のでは、ちょっと話が違ってきます。
紛争の概要
①既存戸建住宅を売買した当時、宅建業者は役所で建築基準法上の道路種類を調査し「二項道路」であることを確認したが、二項道路の基準線を役所で確認せず、独自に道路中心から2m後退した距離を計算して買主に説明した
②買主が17年後に建て替えようとしたところ、当時説明を受けた後退距離より、さらに1m多く後退しなければならないことが判明した(物件の道路向かいが墓地・水路であった為、一方後退が正しい後退方法であった)
③買主は、当時の説明よりも土地が1m余分に後退させられたことについて宅建業者へ不法行為を理由に損害賠償を請求した
このケース、もちろん17年前の重要事項説明違反が明白で、原告の損害賠償請求は認められました。
いくつかポイントがあります。
まず、二項道路の後退方法については、初歩的な業者のミスです。
次に、不法行為として損害賠償を請求できる期間について。
最後に、民法改正についてです。

二項道路は
建築基準法が施行された時にすでに建物が立ち並んでいた道路で、道幅が1.8m以上4m未満のもので、特定行政庁が指定したもの
でした。前面道路が二項道路だった場合、中心線から2m下がった場所が道路の端となるように建築しなければなりません。(→道路の種類と注意点)
これは、敷地の反対側も同様に2m後退することで、将来的に道路幅を4m確保していくための決まりごとなので、反対側が「崖や川、墓地」などの場合は、中心線から2mではなく、反対側の境界線から4mになるのです。
例えば上図の例だと、説明の誤りが判明して、さらに1m後退することになると、
12㎡、3.6坪
の減少となります。結構大きな面積です。
後退した部分には建物も建てられず、建ぺい率や容積率の計算にも参入できないため、建築(増築)計画そのものが変わってきてしまいます。
もちろん、今後その土地建物を売ることになった場合も同様で、その減少分、価格には反映されないこととなるので、資産の下落ということになります。
購入した金額にその面積が含まれており、仲介業者の不法行為が認められれば、その仲介業者がその責任を負わなければなりません。
不法行為とは
不法行為とは、
故意又は過失により、他人の権利や利益を侵害したことによって、損害を与える行為のこと
です。この行為によって生じた損害については、当事者間の契約関係の有無に関わらず、加害者が被害者に賠償する責任を負わなければなりません。
要件としては、
1)加害者の故意又は過失による行為であること
2)他人の権利又は法律上保護される利益を侵害したこと
3)損害が発生していること(財産的損害と精神的損害)
4)損害の発生と行為との間に因果関係があること
5)加害者に責任能力があること
これらの要件を立証しなければなりませんが、その責任は、損害賠償を請求する者が追うこととなります。
除斥期間は20年です。
除斥期間とは、一定の権利に関して、定められた期間内にその権利を行使しないと消滅する期間のことです。時効と違って、中断することもなく、援用しないと効果がないということもありません。
不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年(又は5年)、又は不法行為の時から20年で時効によって消滅する、とされています。
つまり、最大20年の間は、不法行為の存在さえ知れば、相手方に対し請求ができるということです。
民法改正により
このように、建て替えや増改築の機会で初めて不法行為の存在を知ることになるケースといのが、ちょくちょく起こってます。
更地に新しく家を建てる場合と違い、当時の契約書や覚書等が残ってないことが多く、仲介した業者や担当者も不明となってる場合もあるので、責任の所在が明確にならず、裁判沙汰となるのです。
上記のケースでは、明らかに17年前の二項道路についての説明に重大な過失が認めらえるため、仲介した業者に対し不法行為による損害賠償の請求をすることになります。
2020年4月1日施行された改正民法では、
①追完請求
②損害賠償請求
③契約の解除
④代金減額請求
の4つについての、売主あるいは仲介業者に対し、それぞれに応じた請求を行うことができるようになりました。
また、責任を追及する方法も、現行法では「知ってから1年以内に請求すること」が必要でしたが、改正法では「知ってから1年以内にその旨を売主に通知」で足りることとなりましたので、以前よりスピード感をもって請求することが可能となりました。
ただ、「2020年4月以降の契約」からの適用となりますので、それ以前については旧民法の「損害賠償請求権」で争うこととなるでしょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。
二項道路の「反対側が川」だった場合の紛争事例を用いつつ、実際に不法行為による損害賠償請求が認められたケースをご紹介しました。
このように、法改正ではなく、昔の売買時に受けた重要事項説明に過失があるケースも、間々あります。
不動産取引も数が多くなり、トラブル事例や判例が増えたことで、重要事項の説明内容も、年々複雑化し、項目も増えております。
闇雲に項目を増やすことでトラブルを防いでいてもキリない部分も、正直あるのですが、上記例のような明らかに重大な重説違反は、近隣や親族にも迷惑をかける恐れもありますので、放っておくわけにはいきません。
建て替えや増築の際、何かしら指摘され、これまで聞いたこともないような用語が出てきたような場合は、昔の契約書を引っ張り出して役所に持って行って確認するか、不動産業者に見てもらうと良いでしょう。